satorimo

satorikの備忘録

「ことり 」読了

小川洋子さんの「ことり」を読み終わった。

 

一言でいうと、“取り繕うことのできない”男の切ない人生を描いた物語。

これだけでは、つまらない内容にしか聞こえない。

しかし、男の兄が生前小鳥の言葉を話していたと聞くと、にわかに興味が湧く。

 

こんなおじさん周りにきっといるだろう。

誰とも話そうとしない。関わりを持とうとしない。

しかも密かに抱えるその切なさを、自分の心に一旦取り入れて味わうことなどすることもなければ、思いつくことさえない。

せいぜい「悲しそうな人だな」と思う程度だろう。「他人事」に過ぎない。

 

でも少しでもその人なりを知ることができれば、一気に他人事ではなくなる。

 

純情が故に静かに傷ついているその様、誰にも言わない言えない並々ならぬ愛情、自分でも気づいていない深い孤独。

やるせなさと切なさが物語の周りを囲んでいる感じがする。

 

淡々としていながら、その男に寄せる優しい気持ちが随所に感じられる文章は、さすが小川さん。彼女の作品がフォーカスするのはほとんど普通の人。しかし普通の人物の中にある物語を掘り出し、それが普通ではないと思わざるを得なくなるストーリーテリングは秀逸。

 

きっとそれは、全ての人に言えるのかもしれない。普通でなんの取り柄もないと思っているけれど、小川さんの手にかかると、自分もいかに特別で唯一の存在であるかが分かるかもしれない。

自分が彼女の物語に入ると、どんな人物として描かれるのか考えてみるのも少し楽しい。